平和ぼけ

 NGO(Non-Government Organization)、ペシャワール会の伊藤和也さんが誘拐され殺害された事件は、人それぞれに悲痛で重苦しい思いを残します。旅行目的や自らの興味を満たすために政情不安の国を訪れ同様の被害にあう人には、さほどこういった感情を抱くことはありませんが、彼のように自分の利益のためでなくアフガニスタンの復興のためにと、自らの力を少しでも生かそうとする若者の生き方には、私にはとてもできないことだけに、その死には複雑な思いがわいてきます。「息子は息子の思うように生きた」と気丈な父親の言葉にも、その裏には本人以外には計り知れない怒りや後悔が絡み合っていることでしょう。
 報道によれば、何千人もの現地人が彼の捜索に加わったそうです。彼が現地に如何に溶け込んでいたかを物語っています。逆にこれがタリバンを名乗る犯行グループを追い込め、最悪の結果をもたらしたと見る向きもあります。そのグループの中にも、伊藤さんとは180度方向が違いますが、自らの心情で荷担している若者がいることでしょうから、善と悪に単純には区別できない複雑な思いが絡みます。
 日本人は「平和ぼけ」とはよく言われます。この事件で初めてペシャワール会の名やダラエヌール、ジャララバードなどの地名を知った私などは、正に「平和ぼけ」の代表格です。

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