旅行記 その11

 明けて四日目、工場見学の日です。クチまで行くので、ベトコンがつくったクチトンネルを見ようと、予定を繰り上げ食事を済ませての朝7時集合です。工場見学の口聞き役をしてくださる商社の方、その商社の通訳役の女性、そして我々が時間通り、でもガイドの車が到着しません。45分程の遅れで出発です。
 通勤時間帯のバイクの多さは昨日の驚きを更に上回ります。誰かが「湧いて出てる」と表現していましたが、正にその通り。走ること1時間半、クチに入ります。ここ一帯ではライスペーパーが作られていて、見学させていただくのもその工場。日本では溶いた米の粉を丸く広げて作る様が、映像で紹介されたりしていますが、ここは従業員280名の規模、面帯で取り上げ蒸した後竹で編んだ板に乗せ天日乾燥をして、後から円形、方形に切り抜きをします。工場所狭しと竹の板がそこかしこに並び、乾燥して竹から離れる音がぱちぱちと小気味よく聞こえます。やはり問題は品質管理。竹の切れ端やゴミ、製品に開いた小さな穴。日本向けは特に厳しく、歩留まりは2・30%とか。
 ベトナム料理の昼食を挟んで、クチトンネルです。ガイドさんの「アメリカがベトコンに勝てなかった証拠です」が売りです。サイゴンから70kmの近さで、長さは200km、驚きです。時間がないのでビデオでの紹介をパスして、実物を見ます。最初にある断面模型を見ると、トンネルは三層構造、会議室や食堂、寝室などは人が立って生活できる大きさ。その間の移動は膝をかがめて。最下層は匍匐前進。換気口や排煙口は、直接の被害を避けて遠くまで伸ばしてあり、特に排煙は目立たない夜間に排出するよう貯煙する空間も作られています。換気口には探索犬を避けるため、犬のいやがる配慮も。いくつか展示してある落とし穴は、戦争だから許される残虐さです。体験できるトンネルに下りると、すぐは広い部屋、そこから真っ暗な階段を下りると、膝をかがめたまま人一人がやっと進めるトンネル。所々に明かりが灯されていますが、両手を壁に付けてトンネルが続いていることを確認しながらのにじり歩きです。ずっと続いているらしいのですが、10m程進んで最初の出口でリタイヤです。戦争に勝利するという目的のために、人はこんなものまで作り上げるのです。
 クチトンネル体験で一汗かいた後は、2時間かけて次の工場見学地に向かいます。ここは我々の本業、はるさめ工場です。日本や中国での製法と異なりいたって簡単。お湯で練った澱粉を方形の容器に入れ、上から圧力を掛けて、下の穴から麺線として押し出します。それを網で作られた板で受けて、後は乾燥機で乾燥、これだけです。原理的にこれだけで製品になるとは考えられず、メンバーの一社はこの方法を実験してみたそうですが、ものにならなかったそうです。購入した澱粉を自社で再度沈殿をさせていることも含め、昔から受け継がれた方法に我々が知り得ない何かが隠されているのではと、実験をした社の社長が申しておりました。ただ燃料に薪を使用していることや煙草を吸いながらの作業は、日本ではとても考えられません。

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