木製仮面

 9月27日に取り上げた「木製仮面」を見てきました。幸い撮影が自由でしたので、紹介します。少し長くなりますが、説明文も併記させていただきます。
 
 纏向遺跡ではこれまでに数多くの木製品が出土していますが、その中には建築部材や農具などのように実用的なもののほか、祭祀的な意味合いを持つと考えられる遺物が含まれています。このうち後者は祭祀土坑と呼ばれる遺構から出土することが多く、それらの遺物は当時の祭祀形態を考える上で重要な資料となっています。
 平成19年に実施された第149次調査においても、そうした祭祀遺物が出土する土坑が見つかっています。この土坑からは土器類の籠状製品、朱塗りの盾の破片や鎌柄などの多数の木製品とともに、木製仮面が出土しました。
 この木製仮面は長さ約26cm、幅約21.5cmを測り、丁度人間の顔を覆い隠すことができる大きさを持っています。アカガシ亜属製の広鍬を転用して作られたもので、口は鍬の柄孔をそのまま利用していますが、両目の部分は新たに穿孔しており、高く削り残した鼻には鼻孔の表現が見られます。
 また、眉毛は線刻により表現されており、その周辺にはわずかに赤色顔料が付着していました。紐を通す孔などは見られず、手に持って使用したものと推定されます。この木製仮面は、共伴した土器から古墳時代前期の庄内1式期頃(3世紀前半)のものと考えられます。日本列島では縄文時代から弥生時代前期の土製仮面の存在が知られていますが、それ以降古墳時代を通じて仮面の実例はほかに見られません。また木製の仮面としては、これまで7世紀代のものが最古とされていましたが、本例はそれをはるかに遡る事例となりました。
 木製仮面は他の多くの木製品とともに、土坑から出土しました。このことは従来から考えられている土坑祭祀の一場面で、仮面が用いられていたことを示しています。農具である広鍬を転用していることを考えると、その祭祀は農耕に関連するものであったのかもしれません。纏向遺跡でおこなわれた祭祀の形態は、依然として不明な部分が多く残されています。土坑出土の木製仮面は、祭祀形態の研究に新たな視点を与えてくれる貴重な資料と言えるでしょう。

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