人のぬくもり

 もう何年前になりますでしょうか、お店にうら若き女性が来られて、ショーウィンドーをのぞきながら、麺のことをいろいろお尋ねになりました。伺うと、東京でお店をやりたいので、自分の気に入る食材を求めて素麺産地に来られたとか。この地でも何店舗が回った後の来店とかで、意気込みのある方には、ついつい肩入れしたくなります。
 その後しばらくして電話注文をいただいたので、当店の品を気に入っていただいたのでしょう。数も頻度も多くなかったのですが、忘れた頃にご注文をいただくので、「お店を続けておられるのだ」と陰ながら応援していましたが、先日、「大変お世話になりました」と、閉店の挨拶状が届きました。
 厳しい世相、お店がうまくいかなかたのかな、と頭を過ぎったのですが、文面には「私のもとにひょこりとコウノトリがやってまいりました」とあり、おめでたいお話です。
 商売では通常、売った、買ったで済まされてしまいますが、本当は両者があってお互いに成り立つもの。負債で相手に迷惑を掛けることでもなければ、閉店のお知らせなど届かないのが常になってきた世の中ですが、このようにわずかな取引で有りながら、感謝を含めた挨拶状が届くのには、お互いを大事にする人のぬくもりを感じます。

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