「ひっぱってのばす」の力

詳しくは専門家に任せるとして、その大きな要因は製麺した後の分子構造にあるようです。
細い麺をつくるだけなら、何も手間暇かけて手延べでつくる必要はありません。ただつくった麺を調べると、手延べだと他の方法に比べ、分子がより整列して並んでいます。身勝手にあっちこっち向いているのに比べ、手を取り合って規則正しく並んでいるといった感じでしょうか。
実は「伸ばしてつくると強くなる」というのは、麺に限ったことではありません。例えばラップ用のフィルム、薄いのに強いですね。狭いすき間から溶けた樹脂を押し出してつくられるのですが、押し出し機から出たフィルムを更に引っ張って伸ばします。多くはX方向以外にY方向にも引っ張り、これを二軸延伸と呼んでいます。薄くても強いフィルムを生み出す技術です。
自動車用の鋼板、一度のプレスで複雑な形を作り出すので、ひび割れなど生じると使い物になりません。よく映像で見るのは真っ赤な鉄の塊をローラーの間をくぐらせて規定の厚さにしている様子ですが、この鋼板は冷めた状態で同様の手法で薄くされたものに、更に一手間かけてつくります。既に薄くなった鋼板を上下から挟み押しつけるローラーの間を通すのは同じなのですが、この時両側からグッと引っ張りながらわずかに薄くする(伸ばす)のです。質を調整するという意味で、調質圧延と呼ばれ、その率の違いで鋼板の質が変わってくると聞きます。
 単に「伸ばす」と一言で片づけられる作業も、内にはすごい能力を秘めているんですね。