素麺(そうめん)が気持ちよく延び機(はた)に干される姿を何かで見たことのある人は多いはず。
延ばされた素麺(そうめん)はまさに芸術品ですが、実はそのクライマックスに辿り着くまでの道程こそ、本当に知ってもらいたい素晴らしい技術です。
素麺(そうめん)の原材料は小麦粉と食塩、水、綿実油。
朝5時。身を切るような寒さの中、小麦粉を練る食塩水作りが始まります。濃度はその日の気温によって微妙に変化します。この加減が大変重要で、素麺は一晩長持のような木の風呂に寝かせて翌日延ばすので、翌日の天候を見越して決めなければなりません。長年の経験と勘だけがものをいう世界なのです。
小麦粉は中力粉が主体で、強力粉を混ぜて使います。ミキサーに粉を入れて食塩水を加え、羽二重餅のようななめらかさになるまで練りあわせるのですが、この作業がひと仕事。昔は「団子ふみ」といって藁草履を履いて踏んでいました。こね板の上に団子をのせ、平らにのしてはたたみ、のしてはたたむ作業を4回繰り返すのです。5回目にやっと厚さ5~10cmの平らな円状にして次の作業に移るのですが、赤ちゃんのほっぺみたいな柔らかさになるまで踏むにはなんと約8kmも歩いた計算になります。(今は機械でちょっとずるをしています。)
幅10cmほどの渦巻状に包丁で切り、1本の細い帯のような状態にします。
板切(いたぎ)
切った麺体をサイトという名の桶に渦巻状に巻き込むのですが、麺体を保護するためとくっつかせないようにするために表面に綿実油を塗りながら太い麺状(約3cm)にし、サイトに巻き込みます。必要最小限の量にするなら油を練りこむより表面に塗る方がいいという先人の知恵に脱帽です。
油かえし
2~3時間、グルテンが働き出すのを待つため時間を置きます。(素麺をうまくするから「うまし」??)表面に油を塗るのは、「うます」間に麺の乾燥を防ぐためでもあります。
うまし
よりをかけながら直径2cmほどの太さに延ばしてさらに「うまし」ます。
うまし(1時間)
細目
更に細くし(直径1cm以下)サイトに巻き込み、さらにさらに「うまし」ます。
うまし(1時間)
小撚(こより)
「うまし」た素麺(そうめん)を2本の棒によりをかけながら8の字に掛けていきます。麺線は直径約0.4cm。「風呂」と呼ばれる長持のような入れ物でさらにさらにさらに「うまし」ます。
うまし(1時間)
掛巻(かけまき)
「風呂」から一度取り出して2本の棒の間隔を50cmほどに伸ばし、また「風呂」に戻してさらにさらにさらにさらに「うまし」ます。
うまし(13時間 = 一晩)
小引(こびき)
一晩ねかせた素麺(そうめん)を風呂から出して機(はた)に掛け、徐々に力を入れながら2本の棒の間隔を広げて麺線を細くしていきます。わけ箸でくっつかないようさばきながら最終的には直径1.3mm以下、約2mの長さにまで延ばします。
かどぼし
延ばしたものを屋外に出し、寒風と日光で乾燥させます。途中乾燥によって麺は縮むため、機の高さを調節しなければなりません。
乾燥
乾いた素麺(そうめん)を19cmの長さに裁断します。19cmは全国統一寸法です。
50gずつの束に結束し、9kg、18kgの木箱に詰めて梅雨があけるまで素麺蔵でねかせます。
やっと、やっと、素麺(そうめん)が出来上がりました。手間暇かけて愛情かけて、作っています。
注 ) 歴史を残したく昔ながらの手作業の工程を記しています。今は機械化が進み工程は変わりませんが、ほとんどの工程が人の手から機械に置き換わっています。